制作中
- 影もよし 1-078 帚 木
- 何よけむ 1-095 帚 木
- 豊浦の寺 1-223 若 菜
- 行き過ぎがたき 1-246 若 菜
- 笠宿り1 1-276 末摘花
- 笠宿り2 1-286 末摘花
- なりやしなまし 1-339 紅葉賀
- おし開いて来ませ 1-340 紅葉賀
- はなだの帯 1-345 紅葉賀
- 寝る夜はなくて 1-361 花 宴
- 扇をとられて 1-361 花 宴
- 高砂うたひし君1 2-141 賢 木
- 御馬草もよし 2-214 須 磨
- ひぢかさ雨 2-218 須 磨
- 伊勢の海ならねど 2-243 明 石
- 高砂うたひし君2 2-283 澪 標
- 雨そそき* 2-348 蓬 生
- 明日帰り来む 2-439 薄 雲
- 萩が花ずり 3-038 少 女
- 朱雀院朝覲行幸 3-074 少 女
- さき草の末つ方 3-152 初 音
- 男踏歌1 3-159 初 音
- 春秋争いの決着 3-168 胡 蝶
- 折り返しうたふ 3-169 胡 蝶
- 大君来まさば 3-228 常 夏
- 親避くるつま 3-232 常 夏
- 来ざらましかば* 3-232 常 夏
- 男踏歌2 3-382 真木柱
- 高砂うたひし君3 3-410 梅 枝
- 高砂うたひし君4 3-439 藤裏葉
- 関のあらがき 3-441 藤裏葉
- ねぐらの鶯 4-060 若菜上
- 婿の大君 4-062 若菜上
- 鶴の毛衣 4-096 若菜上
- 女楽 4-200 若菜下
- いるさの山の 4-358 横 笛
- 高砂うたひし君5 5-065 竹 河
- 鶯も誘はれたまへ 5-071 竹 河
- 水駅にて 5-072 竹 河
- 竹河のはし 5-074 竹 河
- 中将のおもと 5-096 竹 河
- 男踏歌3 5-097 竹 河
- その夜のことは 5-098 竹 河
- 院と大君との合奏 5-099 竹 河
- 壱越調の心に 5-173 椎 本
- よりもあはなむ 5-224 総 角
- 尋ばかりの隔て 5-241 総 角
- 三つ葉四つ葉 5-364 早 蕨
- 盤渉調(箏調絃) 5-468 宿 木
- 高砂うたひし君6 5-485 宿 木
- あまりほどふる 6-091 東 屋
- 二月の十日のほど 6-146 浮 舟
- 宇治のわたり 6-160 浮 舟
- 武生の国府に 6-169 浮 舟
- ちちりたりたんな 6-320 手 習
凡例
- 『源氏物語』における催馬楽の引用表現について、曲名の特定できるものを一覧した。
- 催馬楽の演奏場面
- 詞章を踏まえた表現、和歌
- 引用本文について、該当する箇所を「太字」(黄下線)で示した。
- 特に曲名のように表現されている箇所は「太字」(黄背景)で示した。
- 音楽に関係するキーワードを赤下線で示した。
- 本文は新編日本古典文学全集『源氏物語』①~⑥(小学館1994-98)によった。
- 例えば、見出しの「1-078」は①巻の78頁を示す。
- 便宜上、私に表記を改めた所がある。
影もよし 1-078 帚 木
(ある上人)懐なりける笛とり出でて吹き鳴らし影もよしなどつづしりうたふほどに、よく鳴る和琴を調べととのへたりける、うるはしく撥き合はせしたりしほど、けしうはあらずかし。律の調べは女のものやはらかに掻き鳴らして、簾の内より聞こえたるも、いまめきたる物の声なれば、清く澄める月にをりつきなからず。
- 引用された催馬楽:《飛鳥井》
- 関係する登場人物:ある上人、女
何よけむ 1-095 帚 木
(源氏)「とばり帳もいかにぞは。さる方の心もなくては、めざましきあるじならむ」とのたまへば、(紀伊守)「何よけむともえうけたまはらず」とかしこまりてさぶらふ。
- 引用された催馬楽:《我家》
- 関係する登場人物:源氏、紀伊守
豊浦の寺 1-223 若 菜
頭中将、懐なりける笛とり出でて吹きすましたり。弁の君、扇はかなううち鳴らして「豊浦の寺の西なるや」とうたふ。人よりはことなる君たちを、源氏の君いといたううちなやみて、岩に寄りゐためへるは、たぐひなくゆゆしき御ありさまにぞ、何事にも目移るまじかりける。
- 引用された催馬楽:《葛城》
- 関係する登場人物: 源氏、頭中将、弁の君
行き過ぎがたき 1-246 若 菜
かひなくて、御供に声ある人してうたはせたまふ。
あさぼらけ霧立つそらのまよひにも行き過ぎがたき妹が門かな
と二返りばかりうたひたるに、よしある下仕を出だして、
立ち止まり霧のまがきの過ぎうくは草のとざしにさはりしもせじ
と言ひかけて入りぬ。
- 引用された催馬楽:《妹之門》
- 関係する登場人物:源氏、御供に声ある人、いと忍びて通ひたまふ所(の女)
笠宿り1 1-276 末摘花
(左近命婦)「いでや、さやうにをかしき方の御笠宿りにはえしもやと、つきなげにこそ見えはべれ。ひとへにものづつみし、引き入りたる方はしも、ありがたうものしたまふ人になむ」と見るありさま語り聞こゆ。
- 引用された催馬楽:《妹之門》
- 関係する登場人物:源氏、左近命婦、末摘花
笠宿り2 1-286 末摘花
かしこには文をだにいとほしく思し出でて、夕つ方ぞありける。雨降り出でて、ところせくもあるに、笠宿りせむとはた思されずやありけむ。
- 引用された催馬楽:《妹之門》
- 関係する登場人物:源氏
なりやしなまし 1-339 紅葉賀
(源氏)なごり涼しき宵のまぎれに、温明殿のわたりをたたずみ歩きたまへば、この内侍、琵琶をいとをかしう弾きゐたり。御前などにても、男方の御遊びにまじりなどして、ことにまさる人なき上手なれば、もの恨めしうおぼえけるをりから、いとあはれに聞こゆ。「瓜作りになりやしなまし」と声はいとをかしうてうたふぞ、すこし心づきなき。鄂州にありけむ昔の人もかくやをかしかりけむと、耳とまりて聞きたまふ。
- 引用された催馬楽:《山城》
- 関係する登場人物:源氏、源典侍
おし開いて来ませ 1-340 紅葉賀
君、《東屋》を忍びやかにうたひて寄りたまへるに、(典侍)「おし開いて来ませ」とうち添えたるも、例に違ひたる心地ぞする。
(典侍)立ち濡るる人しもあらじ東屋にうたてもかかる雨そそきかな
とうち嘆くを、我ひとりしも聞きおふまじけれど、疎ましや、何事をかくまでは、とおぼゆ。
(源氏)人づまはあなわづらはし東屋の真屋のあまりも馴れじとぞ思ふ
とてうち過ぎなまほしけれど・・・
- 引用された催馬楽:《東屋》
- 関係する登場人物:源氏、源典侍
はなだの帯 1-345 紅葉賀
(源氏)この帯を得ざらましかばと思す。その色の紙につつみて、
中絶えばかごとやおふとあやふさにはなだの帯は取りてだに見ず
とて、遣りたまふ。たち返り、
(頭中将)「君にかくひき取られぬる帯なれば、かくて絶えぬる中とかこたむ
え逃れさせたまはじ」とあり。
- 引用された催馬楽:《石川》
- 関係する登場人物:源氏、頭中将
寝る夜はなくて 1-361 花 宴
(源氏)大殿には、例の、ふとも対面したまはず。つれづれとよろづ思しめぐらされて、箏の御琴まさぐりて、「やはらかに寝る夜はなくて」とうたひたまふ。
- 引用された催馬楽:《貫河》
- 関係する登場人物:源氏、葵の上
扇をとられて 1-361 花 宴
(源氏)さしもあるまじきことなれど、さすがにをかしう思ほされて、いづれならむ、と胸うちつぶれて、「扇をとられてからきめを見る」とうちおほどけたる声に言ひなして、寄りゐたまへり。「あやしくもさま変へける高麗人かな」と答ふるは、心知らぬにやあらん。
- 引用された催馬楽:《石川》
- 関係する登場人物:源氏、朧月夜、心知らぬ(女)
高砂うたひし君1 2-141 賢 木
(中将の負態)中将の御子の今年はじめて殿上する、八つ九つばかりにて、声いとおもしろく、笙の笛吹きなどするをうつくしびもてあそびたまふ。四の君腹の二郎なりけり。世の人思へる寄せ重くて、おぼえことにかしづきけり。心ばへもかどかどしう容貌もをかしくて、御遊びのすこし乱れゆくほどに、《高砂》を出だしてうたふいとうつくし。大将御衣ぬぎてかづけたまふ。例よりはうち乱れたまへる御顔のにほひ、似るものなく見ゆ。羅の直衣、単衣を着たまへるに、透きたまへる肌つき、ましていみじう見ゆるを、年老いたる博士どもなど、遠く見たてまつりて涙落としつつゐたり。「あはましものをさゆりはの」とうたふとぢめに、中将御土器まゐりたまふ。
それもがとけさひらけたる初花におとらぬ君がにほひをぞ見る
ほほ笑みてとりたまふ。
「時ならでけさ咲く花は夏の雨にしをれにけらしにほふほどなく
おとろへにたるものを」とうちさうどきて、らうがはしく聞こしめしなすを咎め出でつつ強ひきこえたまふ。
- 引用された催馬楽:《高砂》
- 関係する登場人物:源氏、頭中将、中将の御子(高砂うたひし君)
御馬草もよし 2-214 須 磨
御馬ども近う立てて、見やりかなる倉か何ぞなる稲とり出でて飼ふなど、めづらしう見たまふ。(中将か)《飛鳥井》すこしうたひて、月ごろの御物語、泣きみ笑ひみ「若葉の名にとも世を思さでものしたまふ悲しさを、大臣の明け暮れにつれて思し嘆く」など語りたまふに、たへがたく思したり。
- 引用された催馬楽:《飛鳥井》
- 関係する登場人物:源氏、頭中将
ひぢかさ雨 2-218 須 磨
(源氏)八百よろづ神もあはれと思ふらむ犯せる罪のそれとなければ
とのたまふに、にはかに風吹き出でて、空もかきくれぬ。御祓もしはてず、立ち騒ぎたり。肘笠雨とか降り着て、いとあわたたしければ、みな帰りたまはむとするに、笠もとりあへず。
- 引用された催馬楽:《妹之門》
- 関係する登場人物:源氏、(地の文)
伊勢の海ならねど 2-243 明 石
今の世に聞こえぬ筋弾きつけて、手づかひいといたう唐めき、揺の音深う澄ましたり。伊勢の海ならねど、清き渚に貝や拾はむなど、声よき人にうたはせて、我も時々拍子とりて声うち添へたまふを、箏弾きさしつつめで聞こゆ。
- 引用された催馬楽:《伊勢海》
- 関係する登場人物:源氏、明石の入道、(地の文)
高砂うたひし君2 2-283 澪 標
世の中すさまじきにより、かつは籠りゐたまひしを、とり返しはなやぎたまへば、御子どもなど沈むやうにものしたまへるを、みな浮かびたまふ。とりわきて宰相中将、権中納言になりたまふ。かの四の君の御腹の姫君十二になりたまふを、内裏に参らせむとかしづきたまふ。かの《高砂》うたひし君も、かうぶりさせていと思ふさまなり。
- 引用された催馬楽:《高砂》
- 関係する登場人物:源氏、宰相中将→権中納言、高砂うたひし君
雨そそき* 2-348 蓬 生
*催馬楽の詞章として引用したものかどうか、検討を要する。
雨そそきも、なほ秋の時雨めきてうちそそけば、「御かささぶらふ。げに木の下露は雨にまさりて」と聞こゆ。
- 引用された催馬楽:《東屋》
- 関係する登場人物:(地の文)
明日帰り来む 2-439 薄 雲
姫君は、いはけなく御指貫の裾にかかりて慕ひきこえたまふほどに、外にも出でたまふぬべければ、立ちとまりて、いとあはれと思したり。こしらへおきて、(源氏)「明日帰りこむ」と口ずさびて出でたまふに、渡殿の戸口に待ちかけて、中将の君して聞こえたまへり。
(紫)「舟とむるをちかた人のなくはこそ明日かへりこむ夫と待ちみめ
いたう馴れて聞こゆれば、いとにほひやかにほほ笑みて
(源氏)行きてみて明日もさね来むなかなかにをちかた人は心おくとも
何ごととも聞き分かで戯れ歩きたまふ人を上はうつくしと見やまへば、をちかた人のめざましさもこよなく思しゆるされにたり。
- 引用された催馬楽:《桜人》
- 関係する登場人物:源氏、紫の上、明石の姫君
萩が花ずり 3-038 少 女
(夕霧、笛)いと若うをかしげなる音に吹きたてて、いみじうおもしろければ、御琴どもをしばしとどめて、大臣、拍子おどろおどろしからずうち鳴らしたまひて、「萩が花ずり」などうたひたまふ。
- 引用された催馬楽:《更衣》
- 関係する登場人物:夕霧、内大臣
朱雀院朝覲行幸 3-074 少 女
楽所遠くておぼつかなければ、御前に御琴ども召す。兵部卿琵琶、内大臣和琴、箏の御琴院の御前に参りて、琴は例の太政大臣賜りたまふ。さるいみじき上手のすぐれたる御手づかひどもの尽くしたまへる音はたとへん方なし。唱歌の殿上人あまたさぶらふ。《安名尊》遊びて、次に《桜人》。月朧にさし出でてをかしきほどに、中島のわたりに、ここかしこ篝火どもして、大御遊びはやみぬ。
- 引用された催馬楽:《安名尊》《桜人》
- 関係する登場人物:源氏、内大臣、朱雀院、蛍兵部卿宮、唱歌の殿上人
さき草の末つ方 3-152 初 音
(臨時客)花の香さそふ夕風のどかにうち吹きたるに、御前の梅やうやうひもときて、あれは誰時なるに、物の調べどもおもしろく、《この殿》うち出でたる拍子いとはなやかなり。大臣も時々声うち添へたまへる。「さき草」の末つ方、いとなつかしうめでたく聞こゆ。何ごともさしいらへたまふ御光にはやされて、色をも音をもますけぢめ、ことになん分かれける。
- 引用された催馬楽:《此殿》
- 関係する登場人物:源氏
男踏歌1 3-159 初 音
(男踏歌)殿の中将(夕霧)、内の大臣の君たち、そこらにすぐれて、めやすく華やかなり。ほのぼのと明けゆくに、雪やや散りてそぞろ寒きに、《竹河》うたひてかよれる姿、なつかしき声々の、絵にも描きとどめがたからんこそ、口惜しけれ。御方々、いづれもいづれも劣らぬ袖口ども、こぼれ出でたるこちたさ、物の色あひなども、曙の空に春の錦たち出でにける霞の中かと見わたさる。あやしく心ゆく見物にぞありける。さるは高巾子の世離れたるさま、寿詞の乱がはしき、をこめきたる言もことごとしくとりなしたる、なかなか何ばかりのおもしろかるべき拍子も聞こえぬものを。例の綿かづきわたりてまかでぬ。(中略)万春楽、御口ずさみにのたまひて、「人々のこなたに集ひたまへるついでに、いかで物の音試みてしがな、私の後宴すべし」とのたまひて、御琴どもの、うるはしき袋どもして秘めおかせたまへる、みな引き出でて、おし拭ひて、ゆるべる緒ととのへさせたまひなどす。
- 引用された催馬楽:《竹河》
- 関係する登場人物:源氏、夕霧、内大臣の君たち
春秋争いの決着 3-168 胡 蝶
(舟楽後の私遊)夜に入りぬれば、いと飽かぬ心地して、御前の庭に篝火ともして、御階のもとの苔の上に、楽人召して、上達部、親王たちも、みなおのおの弾物、吹物とりどりにしたまふ。物の師どもことにすぐれたるかぎり、双調吹きて、上に待ちとる御琴どもの調べ、いとはなやかに掻きたてて、《安名尊》遊びたまふほど、生けるかひありと、何のあやも知らぬ賤の男も、御門のわたり隙なき馬、車の立ち処にまじりて、笑みさかえ聞きけり。空の色、物の音も、春の調べ、響きはいとことにまさりけるけじめを、人々思しわくらむかし。
- 引用された催馬楽:《安名尊》
- 関係する登場人物:源氏、楽人、上達部、親王たち、物の師どもことにすぐれたるかぎり
折り返しうたふ 3-169 胡 蝶
夜もすがら遊び明かしたまふ。返り声に喜春楽立ちそひて、兵部卿宮、《青柳》折り返しおもしろくうたひたまふ。主の大臣も言加へたまふ。
夜も明けぬ。朝ぼらけの鳥の囀を、(秋好)中宮は物隔ててねたう聞こしめしけり。
- 引用された催馬楽:《青柳》
- 関係する登場人物:源氏、兵部卿宮
大君来まさば 3-228 常 夏
(源氏)「中将を厭ひたまふこそ、大臣は本意なけれ。まじりものなく、きらきらしかめる中に、大君だつ筋にて、かたくななりとにや」とのたまへば、(玉鬘)「来まさばといふ人もはべりけるを」と聞こへたまふ。(源氏)「いで、その御肴もてはやされけんさまは願はしからず。ただ幼きどちの結びおきけん心も解けず、歳月隔てたまふ心むけのつらきなり。まだ下臈なり、世の聞き耳軽しと思はれば、知らず顔にてここへ委せたまへらむに、うしろめたくはありなましや」など呻きたまふ。
- 引用された催馬楽:《我家》
- 関係する登場人物:源氏、玉鬘、内大臣、夕霧、雲居雁
親避くるつま 3-232 常 夏
(源氏)「貫河の瀬々のやはらた」といとなつかしくうたひたまふ。「親避くるつま」はすこしうち笑ひつつ、わざともなく掻きなしたまへるすが掻きのほど、いひ知らず、おもしろく聞こゆ。「来ざらましかば」とうち誦じたまひて、いとどしき御心は苦しきまでなほえ忍びはつまじく思さる。
- 引用された催馬楽:《貫河》、《我家》
- 関係する登場人物:源氏、玉鬘、内大臣、夕霧、雲居の雁
来ざらましかば* 3-232 常 夏
*スティーヴン・G・ネルソン「『源氏物語』における催馬楽詞章の引用 ─エロスとユーモアの表現法として─」(寺田澄江他編『源氏物語とポエジー』、青簡舎、2015 )による。
(源氏)「来ざらましかば」とうち誦じたまひて、いとどしき御心は苦しきまでなほえ忍びはつまじく思さる。
- 引用された催馬楽:《我家》
- 関係する登場人物:源氏、玉鬘
男踏歌2 3-382 真木柱
ほのぼのとをかしき朝ぼらけに、いたく酔ひ乱れたるさまして、《竹河》うたひけるほどを見れば、内の大殿の君たちは四、五人ばかり、殿上人の中に声すぐれ、容貌きよげにてうちつづきたまへる、いとめでたし。
- 引用された催馬楽:《我家》
- 関係する登場人物:内の大臣の君たち
高砂うたひし君3 3-410 梅 枝
(薫物合の夜)蔵人所の方にも、明日の御遊びのうち馴らしに御琴どもの装束などして、殿上人あまた参りて、をかしき笛の音ども聞こゆ。内の大臣の頭中将(柏木)、弁少将なども、見参ばかりにてまかづるをとどめさせたまひて、御琴ども召す。宮の御前に琵琶、大臣に箏の御琴まゐりて、頭中将和琴賜りて、はなやかに掻きたてたるほど、いとおもしろく聞こゆ。宰相中将(夕霧)横笛吹きたまふ。をりにあひたる調子、雲居とほるばかり吹きたてたり。弁少将拍子とりて、《梅枝》出だしたるほどを、いとをかし、童にて韻塞のをり《高砂》うたひし君なり。宮も大臣もさしいらへたまひて、ことごとしからぬものから、をかしき夜の御遊びなり。
- 引用された催馬楽:《梅枝》、《高砂》
- 関係する登場人物:源氏、夕霧、内大臣、柏木、弁少将(高砂うたひし君)、蛍兵部卿宮、殿上人あまた
高砂うたひし君4 3-439 藤裏葉
例の弁少将、声いとなつかしくて《葦垣》をうたふ。大臣「いとけやけうも仕うまつるかな」とうち乱れたまひて、「年経にけるこの家の」とうち加えたまへる御声いとおもしろし。をかしきほどに乱りがはしき御遊びにて、もの思ひ残らずなりぬめり。
- 引用された催馬楽:《葦垣》
- 関係する登場人物:源氏、弁少将(高砂うたひし君)
関のあらがき 3-441 藤裏葉
(夕霧)「少将の進み出だしつる《葦垣》のおもむきは、耳とどめたまひつや。いたき主かな。『河口の』とこそさし答へまほしかりつれ」とのたまへば、女いと聞き苦しと思して、
「あさき名をいひ流しける河口はいかがもらしし関のあらがき
あさまし」とのたまふさま、いと児めきたり。(夕霧)すこしうち笑ひて、
「もりにくるくきだの関を河口のあさきにのみはおほせざらなん
年月の積もりも、いとわりなくて悩ましきに、ものおぼえず」と酔ひにかこち苦しげにもてなして、明くるも知らず顔なり。
- 引用された催馬楽:《葦垣》《河口》
- 関係する登場人物:夕霧、雲居の雁、弁少将(高砂うたひし君)
参考:3-461(六条院行幸の御遊)唱歌の殿上人、御階にさぶらふ中に弁少将の声すぐれたり。
ねぐらの鶯 4-060 若菜上
唱歌の人々御階に召して、すぐれたる声のかぎり出だして、返り声になる。夜の更け行くままに、物の調べどもなつかしく変りて、《青柳》遊びたまふほど、ねぐらの鶯もおどろきぬべく、いみじうおもしろし。
- 引用された催馬楽:《青柳》
- 関係する登場人物:唱歌の人々、(地の文)
婿の大君 4-062 若菜上
ただ人におはすれば、よろづのことに限りありて、内裏参りにも似ず、婿の大君といはむにも事違ひて、めづらしき御仲のあはひどもになむ。
- 引用された催馬楽:《我家》
- 関係する登場人物:源氏、女三の宮、(地の文)
鶴の毛衣 4-096 若菜上
(薬師仏供養、精進落とし、於二条院)夜に入りて楽人どもまかり出づ。北の政所の別当ども、人々ひきゐて、禄の唐櫃によりて一つづつ取りて、次々賜ふ。白きものどもを品々かづきて、山際より池の堤過ぐるほどのよそ目は、千歳をかねてあそぶ鶴の毛衣に思ひまがへらる。
- 引用された催馬楽:《席田》
- 関係する登場人物:紫の上、楽人ども、(地の文)
女楽 4-200 若菜下
(女楽)女御の君(明石)は箏の御琴をば、上(紫)に譲りきこえて、寄せ臥したまひぬれば、あづまを大殿の御前にまゐりて、け近き御遊びになりぬ。《葛城》遊びたまふ、はなやかにおもしろし。大殿折り返しうたひたまふ御声、たとへむかたなく愛敬づきめでたし。
- 引用された催馬楽:《葛城》
- 関係する登場人物:源氏、紫の上、明石女御ほか
いるさの山の 4-358 横 笛
(夕霧)殿に帰りたまへれば、格子など下ろさせて、みな寝たまひにけり。この宮(落葉の宮)に心かけきこえたまひて、かくねむごろがりきこえたまふぞなど人の聞こえ知らせたれば、(雲居の雁)かやうに夜更かしたまふもなま憎くて、入りたまふをも聞く聞く寝たるやうにてものしたまふなるべし。(夕霧)「妹と我といるさの山の」と、声はいとをかしうして、独りごちうたひて、「こは、など。かく鎖し固めたる。あな埋れや。今宵の月を見ぬ里もありけり」とうめきたまふ。
- 引用された催馬楽:《妹与我》
- 関係する登場人物:夕霧、雲居の雁、落葉の宮
高砂うたひし君5 5-065 竹 河
正月の朔日ごろ、尚侍の君の御はらからの大納言、《高砂》うたひしよ、藤中納言、故大納言の太郎、真木柱のひとつ腹など参りたまへり。右大臣も、御子ども六人ながら引き連れておはしたり。
- 引用された催馬楽:《妹与我》
- 関係する登場人物:紅梅大納言(高砂うたひし君)、藤中納言ほか
鶯も誘はれたまへ 5-071 竹 河
侍従の君(薫)、まめ人の名をうれたしと思ひければ、二十余の日のころ、梅の花盛りなるに、にほひ少なげにとりなされじ、すき者ならはむかしと思して、藤侍従の御もとにおはしたり。中門入りたまふほどに、同じ直衣なる人立てりけり。隠れなむと思ひけるをひきとどめたれば、この常に立ちわづらふ少将(夕霧男)なりけり。寝殿の西面に琵琶、箏の琴の声するに心をまどはして立てるなめり。苦しげや、人のゆるさぬこと思ひはじめむは罪深かるべきわざかな、と思ふ。琴の声もやみぬれば、(薫)「いざ、しるべしたまへ。まろはいとたどたどし」とて引き連れて、西の渡殿の前なる紅梅の木のもとに、《梅枝》をうそぶきて立ち寄るけはひの花よりもさとうち匂へれば、妻戸おし開けて、人々あづまをいとよく掻き合わせたり。女の琴にて、呂の歌はかうしも合はせぬを、いたしと思ひて、いま一返りをり返しうたふを、琵琶も二なくいまめかし。ゆゑありてもてないたまへるあたりぞかしと心とまりぬれば、今宵はすこしうちとけて、はかなしごとなども言ふ。内より和琴さし出でたり。かたみに譲りて手触れぬに、侍従の君して、尚侍の殿、「故致仕大殿の御爪音になむ通ひたまへるを聞きわたるを、まめやかにゆかしくなん。今宵は鶯も誘はれたまへ」とのたまひ出したれば、あまえて爪食ふべきことにもあらぬをと思ひて、をさをさ心にも入らず掻きわたしたまへるけしき、いと響き多く聞こゆ。
- 引用された催馬楽:《梅枝》
- 関係する登場人物:薫(侍従の君)、藤侍従、蔵人少将、玉鬘、故致仕大臣、中将のおもと(和琴)
水駅にて 5-072 竹 河
少将も、こえいとおもしろうて《さき草》うたふ。さかしら心つきてうちすぐしたる人もまじらねば、おのづからかたみにもよほされて遊びたまふに、主の侍従(藤侍従)は故大臣(髭黒)に似たてまつりたまへるにや、かやうのことは後れて、盃をのみすすむれば、「寿詞をだにせんや」と辱められて、《竹河》を同じ声に出だして、まだ若けれどをかしふうたふ。簾のうちより土器さし出づ。(薫)「酔ひのすすみては、忍ぶることもつつまれず、ひが事するわざとこそ聞きはべれ。いかにもてないたまふぞ」ととみにうけひかず。小袿重なりたる細長の人香なつかしう染みわたるを、とりあへたるままにかづけたまふ。(薫)「何ぞもぞ」などさうどきて、侍従は主の君にうちかづけて去ぬ。ひきどどめてかづくれど、「水駅にて夜更けにけり」とて逃げにけり。
- 引用された催馬楽:《此殿》(「さき草」)、《竹河》
- 関係する登場人物:薫(次の場面で薫も歌っていたことがわかる)、藤侍従、蔵人少将、玉鬘
竹河のはし 5-074 竹 河
朝に、四位侍従(薫)のもとより、主の侍従のもとに「昨夜は、いとみだりがはしかりしを、人々いかにみたまひけん」と見たまへと思しう仮名がちに書きて、端に
竹河のはしうち出でしひとふしに深き心のそこは知りきや
と書きたり。寝殿に持て参りて、これかれ見たまふ。(中略)返り事に、げにいと若く(藤侍従)「昨夜は水駅をなん咎めきこゆめりし。
竹河に夜を更かさじといそぎしもいかなるふしを思ひおかまし
げにこのふしをはじめにて、この君の御曹司におはして気色ばみよる。少将の推しはかるもしるく、皆人心寄せたり。侍従の君も、若き心地に、近きゆかりにて明け暮れ睦びまほしう思ひけり。
- 引用された催馬楽:《竹河》
- 関係する登場人物:薫、藤侍従、大君、蔵人少将
中将のおもと 5-096 竹 河
(大君)七月より孕みたまひにけり。うちなやみたまへるさま、げに、人のさまざまに聞こえわづらはすもことわちぞかし。いかでかはかからむ人をなのめに見聞き過ぐしてはやまんとぞおぼゆる。明け暮れ御遊びをさせたまひつつ、侍従もけ近う召し入るれば、御琴の音などは聞きたまふ。かの《梅枝》に合わせたりし中将のおもとの和琴も、常に召し出でて弾かせたまへば、聞きあはするにもただにはおぼえざりけり。
- 引用された催馬楽:《梅枝》
- 関係する登場人物:薫、中将のおもと
男踏歌3 5-097 竹 河
その年返りて、男踏歌せられけり。殿上の若人どもの中に物の上手多かるころほひなり。その中にも、すぐれたるを選らせたまひて、この四位侍従(薫)、右の歌頭なり。かの蔵人少将、楽人の数の中にあり。(中略)にほひもなく見苦しき綿花もかざす人からに見わかれて、さまも声もいとをかしくぞありける。《竹河》うたひて、御階のもとに踏みよるほど、過ぎにし夜のはかなかりし遊びも思ひ出でられければ、ひが事もしつべくて涙ぐみけり。
- 引用された催馬楽:《竹河》
- 関係する登場人物:薫、蔵人少将、楽人
その夜のことは 5-098 竹 河
夜一夜、所々かきありきて、いと悩ましう苦しくて臥したるに、源侍従を、院より召したれば、「あな、苦し。しばし休むべきに」とむつかりながら参りたまへり。御前のことどもなど問はせたまふ「歌頭は、うち過ぐしたる人のさきざきするわざを、選ばれたるほど、心にくかりけり」とて、うつくしと思しためり。「万春楽」を御口ずさみにしたまひつつ、御息所の御方に渡らせたまへば、 御供に参りたまふ。物見に参りたる里人多くて、例よりははなやかに、けはひ今めかし。 渡殿の戸口にしばしゐて、声聞き知りたる人に、ものなどのたまふ。「一夜の月影は、はしたなかりしわざかな。蔵人少将の、月の光にかかやきたりしけしきも、桂の影に恥づるにはあらずやありけむ。雲の上近くては、さしも見えざりき」など語りたまへば、人びとあはれと、聞くもあり。(女房の一人)「闇はあやなきを、月映えはいますこし心ことなりとさだめきこえし」などすかして、内より、
《竹河》のその夜のことは思ひ出づやしのぶばかりのふしはなけれど
と言ふ。はかなきことなれど、涙ぐまるるも、げにいと浅くはおぼえぬことなりけりとみづから思ひ知らる。
流れてのたのめむなしき《竹河》によはうきものと思ひ知りにき
ものあはれなるけしきを、人びとをかしがる。 さるは、おり立ちて人(蔵人少将)のやうにもわびたまはざりしかど、人ざまのさすがに心苦しう見ゆるなり。
- 引用された催馬楽:《竹河》
- 関係する登場人物:薫、女房(の一人)、冷泉院、大君、蔵人少将
院と大君との合奏 5-099 竹 河
(冷泉院)「故六条院の、踏歌の朝に女方にて遊びせられける、いとおもしろかりきと、右大臣の語られし。何事もかのわたりのさしつぎなるべき人難くなりにける世なりや。いと物の上手なる女さへ多く集まりて、いかにはかなきことをもをかしかりけん」などおぼしやりて、御琴ども調べさせたまひて、箏は御息所(大君)、琵琶は侍従に賜ふ。和琴を弾かせたまひて、《此殿》など遊びたまふ。「御息所の琴の音、まだ片なりなるところありしを、いとよう教へないたてまつりたまひてけり。いまめかしく爪音よくて、歌、曲の物など上手にいとよく弾きたまふ。何ごとも心もとなく後れたることはものしたまはぬ人なめり。容貌はたいとをかしかべし」となほ心とまる。
- 引用された催馬楽:《此殿》
- 関係する登場人物:薫、冷泉院、大君(御息所)
壱越調の心に 5-173 椎 本
中将は参でたまふ。遊びに心入れたる君たち誘ひて、さしやりたまふほど酣酔楽遊びて、水にのぞきたる廊に造りおろしたる階の心ばへなど、さる方にいとをかしうゆゑある宮なれば、人々心して母より下りたまふ。ここは、またさま異に山里びたる、網代屏風などの、ことさらにことそぎて、見どころある御しつらひを、さる心してかき払ひ、いといたうしなしたまへり。いにしへの音などいと二なき弾物どもを、わざと設けたるやうにはあらで、次々弾き出でたまひて、壱越調の心に、《桜人》遊びたまふ。主の宮の御琴をかかるついでにと人々思ひたまへれど、箏の琴をぞ心にも入れずをりをり撥き合はせたまふ。耳馴れぬけにやあらむ、いともの深くおもしろしと若き人々思ひしみたり。
- 引用された催馬楽:《桜人》
- 関係する登場人物:薫(中将)、八宮、遊びに心入れたる君たち
よりもあはなむ 5-224 総 角
御願文つくり、経、仏供養せらるべき心ばへなど、書き出でたまへる硯のついでに、客人(薫)
あげまきに長き契りをむすびこめおなじ所によりもあはなむ
と書きて、見せたてまつりたまげれば、例の、とうるさけれど、
(大君)ぬきもあへずもろき涙の玉の緒に長き契りをいかがむすばん
とあれば、「あはずは何を」と恨めしげにながめたまふ。
- 引用された催馬楽:《角総》
- 関係する登場人物:薫、大君
尋ばかりの隔て 5-241 総 角
例ならず人のささめきしけしきもあやしとこの宮(中の君)は思しつつ寝たまへるに、かくておはしたればうれしくて、御衣ひき着せたてまつりたまふに、ところせき御移り香の紛るべくもあらずくゆりかをる心地すれば、宿直人がもてあつかひけむ思ひあはせられて、まことなるべしといとほしくて、寝ぬるやうにてものものたまはず。客人は弁のおもと呼び出でたまひて、こまかに語らひおき、御消息すくすくしく聞こえおきて出でたまひぬ。《総角》を戯れにとりなししも、心もて「尋ばかリ」の隔てにも対面しつるとや、この君も思すらむといみじく恥づかしければ、心地あしとてなやみ暮らしたまひつ。
- 引用された催馬楽:《角総》
- 関係する登場人物:薫、大君、中の君
三つ葉四つ葉 5-364 早 蕨
(中の君)宵うち過ぎて、(二条院)おはし着きたる。見も知らぬさまに、目も輝くやうなる殿造りの、三つ葉四つ葉なる中に引き入れて、宮(匂宮)いつしかと待ちおはしましければ、御車のもとに、みづから寄らせたまひて下ろしたてまつりたまふ。
- 引用された催馬楽:《角総》
- 関係する登場人物:薫、大君、中の君
盤渉調(箏調絃) 5-468 宿 木
(匂宮)「~」など、まめやかにうらみられてぞ、(中の君)うち嘆きてすこし調べたまふ。ゆるびたりければ、盤渉調に合わせたまふ掻き合はせなど、爪音をかしげに聞こゆ。《伊勢海》うたひたまふ御声のあてにをかしきを、女ばら物の背後に近づき参りて、笑みひろごりてゐたり。
- 引用された催馬楽:《伊勢海》
- 関係する登場人物:匂宮、中の君
高砂うたひし君6 5-485 宿 木
(藤花宴)夜更くるままに、御遊びいとおもしろし。大将の君の《安名尊》うたひたまへる声ぞ、限りなくめでたかりける。按察も、昔すぐれたまひし御声のなごりなれば、今も、いとものものしくて、うち合はせたまへり。右の大臣(夕霧)の御七郎、童にて笙の笛吹く。いとうつくしかりければ、御衣賜す。大臣下りて舞踏したまふ。
- 引用された催馬楽:《安名尊》
- 関係する登場人物:薫、按察大納言(高砂うたひし君)、夕霧、夕霧七男
あまりほどふる 6-091 東 屋
(宿直人)「家の辰巳の隅の崩れいと危し。この、人の御車入るべくは、引き入れて御門鎖してよ。かかる、人の供人こそ、心はうたてあれ」など言ひあへるも、むくむくしく聞きならはぬ心地したまふ。(薫)「佐野のわたりに家もあらなくに」など口ずさびて、里びたる簀子の端つ方にゐたまへり。
(薫)さしとむるむぐらやしげき東屋のあまりほどふる雨そそきかな
と打ち払ひたまへる追風、いとかたはなるまで東国の里人も驚きぬべし。
- 引用された催馬楽:《東屋》
- 関係する登場人物:薫、浮舟、宿直人
二月の十日のほど 6-146 浮 舟
二月の十日のほどに、内裏に文作らせたまふとて、この宮も大将も参りあひたまへり。をりにあひたる物の調べどもに、宮の御声はいとめでたくて、《梅が枝》などうたひたまふ。何ごとも人よりはこよなうまさりたまへる御さまにて、すずろなること思し焦らるるのみなむ、罪深かりける。
- 引用された催馬楽:《梅枝》
- 関係する登場人物:匂宮、薫
宇治のわたり 6-160 浮 舟
手習に
(浮舟)里の名をわが身に知れば山城の宇治のわたりぞいとど住みうき
- 引用された催馬楽:《山城》?
- 関係する登場人物:浮舟、薫
武生の国府に 6-169 浮 舟
(母君)「さなむ思ひはべれど、かしこもいともの騒がしくはべり。この人々も、はかなきことなどえしやるまじく、せばくなどはべればなむ。武生の国府に移ろひたまふとも、忍びては参り来なむを。なほなほしき身のほどは、かかる御ためこそいとほしくはべれ」などうち泣きつつのたまふ。
- 引用された催馬楽:《道口》
- 関係する登場人物:母君、浮舟
ちちりたりたんな 6-320 手 習
(母尼)「いで主殿のくそ、あづまとりて」と言ふにも、咳は絶えず。人々は、見苦しと思へど、僧都をさへ、恨めしげに愁へて言ひ聞かすれば、いとほしくてまかせたり。取り寄せて、ただ今の笛の音をもたづねず、ただおのが心をやりて、あづまの調べを爪さはやかに調ぶ。みな異ものは声やめつるを、これにのみめでたると思ひて、「たけふ。ちちりちちり、たりたんな」など、掻き返しはやりかに弾きたる、言葉ども、わりなく古めきたり。
- 引用された催馬楽:《道口》?
- 関係する登場人物:母尼