詞章一覧

現在旧サイトを改め再構築中です。ご不便をおかけいたします。

  1. 詞章一覧 凡例
  2. 律歌
    1. 我駒   あがこま
    2. 沢田河  さはだがは
    3. 高砂   たかさご
    4. 夏引   なつひき
    5. 貫河   ぬきかは
    6. 東屋   あづまや
    7. 走井   はしりゐ
    8. 飛鳥井  あすかゐ
    9. 青柳   あをやぎ
    10. 伊勢海  いせのうみ
    11. 庭生   にはにおふる
    12. 我門   わがゝど
    13. 我門乎  わがゝどを
    14. 大路   おほゝぢ
    15. 大芹   おほせり
    16. 浅水   あさむづ
    17. 刺櫛   さしぐし
    18. 鷹子   たかのこ
    19. 逢路   あふみぢ
    20. 道口   みちのくち
    21. 更衣   ころもがへ
    22. 何為   いかにせむ
    23. 老鼠   おいねずみ
    24. 鶏鳴   とりはなきぬ
    25. 陰名   くぼのな
  3. 呂歌
    1. 安名尊  あなたふと
    2. 新年   あらたしきとし
    3. 梅枝   むめがえ
    4. 桜人   さくらびと
    5. 葦垣   あしがき
    6. 山城   やましろ
    7. 真金吹  まがねふく
    8. 紀伊国  きのくに
    9. 葛城   かつらぎ
    10. 竹河   たけかは
    11. 河口   かはぐち
    12. 此殿   このとの
    13. 此殿西  このとのゝにし
    14. 此殿奥  このとのゝおく
    15. 鷹山   たかやま
    16. 石川   いしかは
    17. 美作   みまさか
    18. 藤生野  ふじふの
    19. 妹与我  いもとあれ
    20. 浅緑   あさみどり
    21. 青馬   あをのま
    22. 妹之門  いもがゝど
    23. 席田   むしろだ
    24. 大宮   おほみや
    25. 角総   あげまき
    26. 本滋   もとしげき
    27. 美濃山  みのやま
    28. 眉止自女 まゆとじめ
    29. 酒飲   さけをたうべて
    30. 田中井戸 たなかのゐど
    31. 無力蝦  ちからなきかへる
    32. 難波海  なんばのうみ
    33. 奥山   おくやま
    34. 奥山尓  おくやまに
    35. 鈴之川  すゞかゞは
    36. 我家   わいへ
  4. 別記
    1. 西方楽
      1. (青柳) あをやぎ
      2. (伊勢海)いせのうみ
      3. (浅水) あさむず
      4. (庭生) にはにおふる
      5. (走井) はしりゐ
      6. (更衣) ころもがへ
      7. (飛鳥井)あすかゐ
      8. (道口) みちのくち
    2. 『簾中抄』目録所載曲
      1. 千歳経* ちとせふる(律)
      2. 浅也*  あさや(律)
      3. 長沢*  ながさは(呂)
      4. 万木*  よろづき(呂)
      5. 鏡山*  かゞみやま(呂)
      6. 高嶋*  たかしま(呂)
    3. 踏歌歌謡
      1. 万春楽* ばんすらく
      2. 何ぞもぞ*なにぞもぞ
    4. 『楽章類語鈔』所収曲
      1. しらね* しらね

詞章一覧 凡例

  • 詞章は、以下の古楽譜資料を翻刻し、私に解釈したものを用いる。
    • 鍋島報效会徴古館蔵『催馬楽』(、底本)
      • (断簡)書芸文化院蔵「催馬楽切」
      • (断簡)京都国立博物館蔵『藻塩草』所収、伝宗尊親王筆「催馬楽切」
    • 東京国立博物館蔵『催馬楽抄』(
    • 宮内庁書陵部蔵伏見宮家旧蔵『三五要録』本説 (
  • 囃詞とみなされる箇所はカタカナで示す。
  • 詞章右傍「百」「・」などの記号、小母音字(産み字)は省く。
  • 詞章の読みを青字ひらがなで示す。ただし一部底本の漢字表記を残した箇所がある。
  • 曲の順序は音楽的情報を考慮した独自の配列を用いる。
  • 曲名は原則として底本本文によるが、一部便宜をはかり通称を用いる。

律歌

我駒   あがこま

  1. いでが駒 早く行きこせ 真土山 アハレ 真土山 ハレ
    いであがこま はやくゆきこせ まつちやま あはれ まつちやま はれ
  2. 真土山 待らむ人を 行きて早 アハレ 行きて早見
    まつちやま まつらむひとを ゆきてはや あはれ ゆきてはやみむ

沢田河  さはだがは

  1. 沢田河 袖つくばかりヤ 浅けれど ハレ
    さはだがは そでつくばかりや あさけれど はれ
  2. 浅けれど 恭仁の宮人ヤ 高橋渡す
    あさけれど くにのみやびとや たかはしわたす
  3. アハレ ソコヨシヤ 高橋渡す
    あはれ そこよしや たかはしわたす

高砂   たかさご

  1. 高砂の サ いさゝごの 高砂の
    さはだがは そでつくばかりや あさけれど はれ
  2. 尾の上に立てる 白玉 玉椿 玉柳
    おのへにたてる しらたま たまつばき たまやなぎ
  3. それもがと サム 汝もがと 汝もがと
    それもがと さむ ましもがと ましもがと
  4. 練緒染緒の 御衣架にせむ 玉柳
    ねりをさみをの みぞかけにせむ たまやなぎ
  5. 何しかも サ 何しかも 何しかも
    なにしかも さ なにしかも なにしかも
  6. 心も急いけむ 百合花の サ 百合花の
    こゝろもまたいけむ ゆりはなの さ ゆりはなの
  7. 今朝咲いたる初花に 逢はましものを サ 百合花の
    けささいたるはつはなに あはましものを さ ゆりはなの

夏引   なつひき

  1. 夏引きの 白糸 七はかりあり さ衣に 織りても着せむ 汝妻離れよ
    なつひきの しらいと なゝはかりあり さころもに おりてもきせむ ましめはなれよ
  2. 頑なに ものいふ女かな ナ 汝 麻衣も 我が妻のごとく 袂よく 着よく肩よく 小領安らに 汝着せめかも 
    かたくなに ものいふをみなかな な まし あさぎぬも わがめのごとく たもとよく きよくかた [1]「可安太」、「加太」 よく こくびやすらに ましきせめかも

貫河   ぬきかは

  1. 貫川の 瀬々の 柔ら手枕 やはらかに 寝る夜はなくて 親離くるつま
    ぬきかはの せゞの やはらたまくら やはらかに ぬるよはなくて おやさくるつま
  2. 親離くる つまは まして麗し しかさらば やはぎの市に 沓買ひて行む
    おやさくる つまは ましてるはし しかさらば やはぎのいちに くつかひてかむ
  3. 沓買はば 線鞋の 細敷を買へ さし履きて 上裳とり着て 宮路通はむ
    くつかはゞ せんがいの ほそしきをかへ さしはきて うはもとりきて みやぢかよはむ

東屋   あづまや

  1. あづまやの 真屋の余りの その雨そゝき 我立ち濡れぬ 殿戸開かせ
    あづまやの まやのあまりの そのあまそゝき われたちぬれぬ とのどひらかせ
  2. 鎹も 戸鎖もあらばこそ その殿戸 我鎖さめ 押し開いてきませ 我や人妻[2]は一段、他本二段につきこれに従う。
    かすがひも とざしもあらばこそ そのとのど われさゝめ おしひらいてきませ われやひとづま

走井   はしりゐ

  • 走り井の 小萱刈り納め カケ それにこそ 繭作らせて 糸引きなさめ
    はしりゐの こかやかりおさめ かけ それにこそ まゆつくらせて いとひきなさめ 

飛鳥井  あすかゐ

  • 飛鳥井に 宿りはすべしヤ オケ 蔭もよし 御水も冷し 御馬草もよし
    あすかゐに やどりはすべしや おけ かげもよし みもひもさむし みまくさもよし 

青柳   あをやぎ

  1. 青柳を 片糸に縒りてヤ オケヤ 鶯の オケヤ
    あをやぎを かたとにかけてや おけや うぐひすの おけや
  2. 鶯の 縫ふといふ笠は オケヤ 梅の花笠ヤ
    うぐひすの ぬふといふかさは おけや うめのはながさや

伊勢海  いせのうみ

  • 伊勢の海の 清き渚に 潮間に なのりそや摘まむ 貝や拾はむヤ 玉や拾はむヤ
    いせのうみの きよきなぎさに しほがひに なのりそやつまむ かひやひろはむや たまやひろはむや 

庭生   にはにおふる

  • 庭に生ふる 唐薺は 良き菜なり ハレ 宮人の 下ぐる袋を 己れかけたり
    にはにおふる からなづなは よきなゝり はれ みやびとの さぐるふくろを おのれかけたり 

我門   わがゝど

  1. 我が門に 我が門に 上裳の裾濡れ 下裳の裾濡れ 朝菜摘み 夕菜摘み 朝菜摘み
    わがゝどに わがゝどに うはものすそぬれ したものすそぬれ あさなつみ ゆふなつみ あさなつみ
  2. 朝菜摘み 夕菜摘み わがなを知らまく 欲しからば 御園生の 御園生の
    あさなつみ ゆふなつみ わがなをしらまく ほしからば みそのふの みそのふの
  3. 御園生の[3]「美曽不」、「美曽乃不乃」 御園生の 漢部の郡の 大領の 愛娘と言へ 弟嫁と言へ
    みそのふの みそのふの あやべのこほりの 大領の まなむすめといへ おとむすめといへ

我門乎  わがゝどを

  1. 我が門を とさんかうさん 練る[4]「礼留」、「祢留」男 由こさるらしヤ 由こさるらしヤ
    わがゝどを とさんかうさん ねるおのこ よしこさるらしや よしこさるらしや
  2. 由なしに とさんかうさん 練る男 由こさるらしヤ 由こさるらしヤ
    よしなしに とさんかうさん ねるおのこ よしこさるらしや よしこさるらしや 

大路   おほゝぢ

  1. 大路に 沿ひて上れる 青柳が花ヤ 青柳[5]「安乎支」、「アオヤキ」が花ヤ
    おほゝぢに そひてのぼれる あをやぎがはなや あをやぎがはなや
  2. 青柳が しなひを見れば 今盛りなりヤ 今盛りなりヤ
    あをやぎが しなひをみれば いまさかりなりや いまさかりなりや 

大芹   おほせり

  • 大せりは 国の禁物 小芹こそ 茹でゝもむまし これやこの せんばんさんたの木の 柞の木の盤 虫噛の筒 犀角の賽 をさいとさい 両面かすめうけたる切通し 金嵌め盤木 五六返し 一六の賽ヤ 四三賽ヤ
    おほせりは くにのさたもの こせりこそ ゆでゝもむまし これやこの せん盤さんたのきの ゆしのきの盤 むしかめのとう さいかくのさい をさいとさい 両面かすめうけたるきりとほし かなはめ盤木 五六がへし いち六のさいや 四三さいや

浅水   あさむづ

  • 浅水の橋の とゞろとゞろと 降りし雨の 古りにし我を 誰ぞこの 仲人立てゝ 御許のかたち 消息し 訪ひに来るヤ サキムダチヤ
    あさむづのはしの とゞろとゞろと ふりしあめの ふりにしわれを たれぞこの なかひとたてゝ みもとのかたち せうそこし とぶらひにくるや さきむだちや

刺櫛   さしぐし

  • 刺櫛は 十余り七つ ありしかど たけくの掾の 朝に取り 夜さり取り 取りしかば 刺櫛もなしヤ サキムダチヤ
    さしぐしは たうまりなゝつ ありしかど たけくの掾の あしたにとり ようさりとり とりしかば や さきむだちや さきむだちや

鷹子   たかのこ

  • 鷹の子は 磨に賜らむ 手に据ゑて 粟津の原の 御栗栖のめぐりの 鶉狩らせむヤ サキムダチヤ
    たかのこは まろにたばらむ てにすゑて あはづのはらの みくるすのめぐりの うづらからせむや さきむだちや

逢路   あふみぢ

  • 近江路の 篠の小蕗 早引かず 子持ち待ち痩せぬらむ 篠の小蕗ヤ サキムダチヤ
    あふみぢの しののおふゝき はやひかず こもちまちやせぬらむ しのゝおふゝきや さきむだちや

道口   みちのくち

  • 道の口 武生の国府に 我はありと 親に申し賜べ 心あひの風ヤ サキムダチヤ
    みちのくち たけふのこふに われはありと おやにもうしたべ こゝろあひのかぜや さきむだちや

更衣   ころもがへ

  • 衣替へせむや サキムダチヤ 我が衣は 野原篠原 萩の花摺りヤ サキムダチヤ
    ころもがへせむや さきむだちや わがきぬは のはらしのはら はぎのはなずりや さきむだちや

何為   いかにせむ

  • いかにせむ せむや をしの鴨鳥ヤ 出でゝ行かば 親は歩くと苛べど 夜妻は定めつヤ サキムダチヤ
    いかにせむ せむや をしのかもとりや いでゝゆかば おやはありくとさいなべど よつまはさだめつや さきむだちや

老鼠   おいねずみ

  • [6]ににナシ。による。西寺の 老鼠 若鼠 御裳喰むつ 袈裟喰むつ 袈裟喰むつ 法師に申さむ 師に申せ 法師に申さむ 師に申せ
    にしでらの おいねずみ わかねずみ おむしやうつむつ けさつむつ けさつむつ ほうしにまうさむ しにまうせ ほうしにまうさむ しにまうせ

鶏鳴   とりはなきぬ

  • 鶏は鳴きぬ テフカサ さくら磨が しがものを 押しはし 来りゐてすれ 汝が子成すまで
    とりはなきぬ てふかさ さくらまろが しがものを おしはし きたりゐてすれ ながこなすまで

陰名   くぼのな

  • 陰の名をば 何とか言ふ 陰の名をば 何とか言ふ つらたり けふくなう たもろ つらたり けふくなう たもろ
    くぼのなをば なにとかいふ くぼのなをば なにとかいふ つらたり けふくなう たもろ つらたり けふくなう たもろ

呂歌

安名尊  あなたふと

  1. あな尊 今日の尊さヤ 古も ハレ
    あなたふと けふのたふとさや いにしへも はれ
  2. 古も かくやありけむヤ 今日の尊さ
    いにしへも かくやありけむや けふのたふとさ
  3. アハレ ソコヨシヤ 今日の尊さ
    あはれ そこよしや けふのたふとさ

新年   あらたしきとし

  1. 新しき 年の始めにヤ かくしこそ ハレ
    あらたしき としのはじめにや かくしこそ はれ
  2. かくしこそ 仕へまつらめヤ 万代までに
    かくしこそ つかへまつらめや よろづよまでに
  3. アハレ ソコヨシヤ 万代までに
    あはれ そこよしや よろづよまでに

梅枝   むめがえ

  1. 梅が枝に 来ゐる鶯ヤ 春かけて ハレ
    むめがえに きゐるうぐひすや はるかけて はれ
  2. 春かけて 鳴けども未だヤ 雪は降りつゝ
    はるかけて なけどもいまだや ゆきはふりつゝ
  3. アハレ ソコヨシヤ 雪は降りつゝ
    あはれ そこよしや ゆきはふりつゝ

桜人   さくらびと

  1. さくら人 その舟ちゞめ 島つ田を 十町作れる 見て帰りこむヤ ソヨヤ 明日帰り来む ソヨヤ[7]「曽於与於也」、「曽与也」
    さくらびと そのふねちゞめ しまつたを とまちつくれる みてかえりこむや そよや あすかえりこむや そよや 
  2. 言をこそ 明日とも言はめ 彼方に 妻さる夫は 明日もさね来じヤ ソヨヤ[8]「曽与」、「曽与也」 サ明日もさね来じヤ
    ことをこそ あすともいはめ をちかたに つまさるせなは あすもさねこじや そよや さあすもさねこじや

葦垣   あしがき

  1. 葦垣籬 籬かき分け てふ越すと 負ひ越すと ハレ
    あしがきまがき まがきかきわけ てふこすと おひこすと はれ 
  2. てふ越すと 誰か 誰かこのことを[9]「多己止乎」、「太礼加 太礼加己乃己止乎」 親に申讒し申しゝ
    てふこすと たれか たれかこのことを おやにまうよこしまうしゝ
  3. [10]三段以下欠。書芸文化院蔵断簡「催馬楽切」による。とゞろける この家 この家の 弟嫁 親に申讒しけらしも
    とゞろける このいへ このいへの おとよめ おやにまうよこしけらしも
  4. 天地の 神も 神も証したべ 我は申讒し申さず
    あめつちの かみも かみもそうしたべ われはまうよこしまうさず
  5. 菅の根の すがな すがなき[11]断簡ここまで、以下による。ことを 我は聞く 我は聞くかな
    すがのねの すがな すがなきことを われはきく われはきくかな

山城   やましろ

  1. [12]本文三段二句まで欠。による。目次「山代」、「山城」。山城の 狛のわたりの 瓜作り ナヨヤ ライシナヤ サイシナヤ 瓜作り 瓜作り ハレ
    やましろの こまのわたりの うりつくり なよや らいしなや さいしなや うりつくり うりつくり はれ 
  2. 瓜作り 我を欲しと言ふ いかにせむ ナヨヤ ライシナヤ サイシナヤ いかにせむ いかにせむ ハレ
    うりつくり われをほしといふ いかにせむ なよや らいしなや さいしなや いかにせむ いかにせむ はれ
  3. いかにせむ なりやしなまし 瓜たつまでにヤ ライシナヤ サイシナヤ 瓜たつま 瓜たつまでに
    いかにせむ なりやしなまし うりたつまでにや らいしなや さいしなや うりたつま うりたつまでに

真金吹  まがねふく

  1. [13]本文欠。による。真金吹く 吉備の中山 帯にせる ナヨヤ ライシナヤ サイシナヤ 帯にせる 帯にせる ハレ
    まがねふく きびのなかやま おびにせる なよや らいしなや さいしなや おびにせる おびにせる はれ 
  2. 帯にせる 細谷川の 音の清けさヤ ライシナヤ サイシナヤ 音のさや 音の清けさ
    おびにせる ほそたにがはの おとのさやけさや らいしなや さいしなや おとのさや おとのさやけさ

紀伊国  きのくに

  1. 紀伊国の 白らの浜に 真白らの浜に 降り居るかもめ ハレ その玉持て来
    きのくにの しらゝのはまに ましらゝのはまに おりゐるかもめ はれ そのたまもてこ
  2. 風しも吹けば 余波しも立てれば 水底霧りて ハレ その玉見えず
    かぜしもふけば なごりしもたてれば みなそこきりて はれ そのたまみえず

葛城   かつらぎ

  1. 葛城の 寺の前なるヤ 豊浦の寺の 西なるヤ
    かつらぎの てらのまえなるや とよらのてらの にしなるや 
  2. 榎葉井に 白璧沈くヤ 真白璧沈くヤ オシトヾ トオシトヾ
    えのはゐに しらたましづくや ましらたましづくや おしとゞ とおしとゞ
  3. 然してば 国ぞ栄えむヤ 我家らぞ富せむヤ オシトヾ トシトンド オヽシトンド トシトンド
    しかしてば くにぞさかえむや わいへらぞとみせむや おしとゞ とし屯ど おゝし屯ど とし屯ど

竹河   たけかは

  1. 竹河の 橋の詰めなるヤ 橋の詰めなるヤ 花園に ハレ
    たけかはの はしのつめなるや はしのつめなるや はなぞのに はれ 
  2. 花園に 我をば放てヤ 我をば放てヤ 少女たぐへて
    はなぞのに われをばはなてや われをばはなてや めざしたぐへて

河口   かはぐち

  1. 河口の 関の荒垣ヤ 関の荒垣ヤ 守れども ハレ
    かはぐちの せきのあらがきや せきのあらがきや まもれども はれ 
  2. 守れども 出でゝ我寝ぬヤ 出でゝ我寝ぬヤ 関の荒垣
    まもれども いでゝわれねぬや いでゝわれねぬや せきのあらがき

此殿   このとの

  1. [14]本文欠、による。目次「此殿者」「此殿」此の殿は むべも むべも富みけり 三枝の アハレ 三枝の ハレ
    このとのは むべも むべもとみけり さきくさの あはれ さきくさの はれ 
  2. 三枝の 三つ葉 四つ葉の中に 殿造りせりヤ 殿造りせりヤ 
    さきくさの みつば よつばのなかに とのつくりせりや とのつくりせりや

此殿西  このとのゝにし

  1. [15]本文欠、『藻塩草』所収「催馬楽切」による。目次「此殿乃」、断簡「此殿」、「此殿西」、三「此殿之」、便宜上「此殿西」を採る。此の殿の 西の 西の倉垣 春日すら アハレ 春日すら ハレ
    このとのゝ にしの にしのくらがき はるひすら あはれ はるひすら はれ 
  2. 春日すら 行けど 行けども尽きず 西の倉垣ヤ 西の倉垣ヤ 
    はるひすら ゆけど ゆけどもつきず にしのくらがきや にしのくらがきや

此殿奥  このとのゝおく

  1. [16]目次「此殿奥」、本文「此殿」、「此殿奥」此の殿の 奥の 奥の酒屋の うばたまり アハレ うばたまり ハレ
    このとのゝ おくの おくのさかやの うばたまり あはれ うばたまり はれ 
  2. うばたまり 我を 我を恋ふらし こさか声なるヤ こさか声なるヤ[17]「己恵奈留也」、「コサカコヱナルヤ」 
    うばたまり われを われをこふらし こさかごゑなるや こさかごゑなるや

鷹山   たかやま

  1. 鷹山に 鷹を 鷹を放ち上げ 招くをなみ アハレ 招くをなみ ハレ
    たかやまに たかを たかをはなちあげ をぐをなみ あはれ をぐをなみ はれ 
  2. 招くをなみ 我がす 我がする時に 逢へる夫かもヤ 逢へる夫かもヤ 
    をぐをなみ わがす わがするときに あへるせなかもや あへるせなかもや

石川   いしかは

  1. 石川の 高麗人に 帯を取られて 辛き悔いする
    いしかはの こまうどに おびをとられて からきくいする
  2. いかなる いかなる帯ぞ 縹の帯の 中はたいれなるか[18]ママ、「太衣太留」、「タエタル」 
    いかなる いかなるおびぞ はなだのおびの なかはたいれなるか
  3. かやるか あやるか 中はたいれたるか [19]ママ、「太衣太留」、「タエタル」  
    かやるか あやるか なかはたいれたるか

美作   みまさか

  1. 美作や 久米の 久米のさら山 さらさらに ナヨヤ さらさらに ナヨヤ
    みまさかや くめの くめのさらやま さらさらに なよや さらさらに なよや
  2. さらさらに 我が名 我が名は立てじ 万代までにヤ 万代までにヤ
    さらさらに わがな わがなはたてじ よろづよまでにや よろづよまでにや

藤生野  ふじふの

  1. 藤生野の かたち かたちが原を 標め栄やし ナヨヤ 標め栄やし ナヨヤ
    ふじふのゝ かたち かたちがはらを しめはやし なよや しめはやし なよや
  2. 標め栄やし 斎き 祝ひしゝるく 時にあへるかもヤ 時にあへるかもヤ
    しめはやし いつき いはひしゝるく ときにあへるかもや ときにあへるかもや

妹与我  いもとあれ

  • 妹と我と 入佐の山の 山蘭 手なとり触れそ 顔優るがに 疾く優るがに
    いもとあれと いるさのやまの やまあらゝぎ てなとりふれそ かほまさるがに とくまさるがに

浅緑   あさみどり

  • 浅緑 濃い縹 染めかけたりとヤ[20]「毛」、「ヤ」 見るまでに 玉光る 下光る 新京朱雀の枝垂り柳 またはたゐとなる 前栽秋萩 撫子唐葵 枝垂り柳
    あさみどり こいはなだ そめかけたりとや みるまでに たまひかる したひかる 新京朱さかの しだりやなぎ またはたゐとなる 前栽あきはぎ なでしこからほひ しだりやなぎ

青馬   あをのま

  • 青馬放れば とり繋げ さ青馬放れば とり繋げ しのいさやの しのいさやの させこがひこなる さ郎子 または太郎子の たいきの童の させこがひ[21]「たいきの童のさせこがひ」ナシ、による。こなる さ郎子
    あをのまはなれば とりつなげ さをのまはなれば とりつなげ しのいさやの しのいさやの させこがひこなる  こ論語 またはた論語の させこがひこなる さい論語

妹之門  いもがゝど

  • 妹が門 夫が門 行き過ぎかねてヤ 我が行かば 肘笠の 肘笠の 雨もヤ降らなむ しでたをさ 雨宿り 笠宿り 宿りてまからむ しでたをさ
    いもがゝど せながゝど ゆきすぎかねてや わがゆかば ひぢかさの ひぢかさの あめもやふらなむ しでたをさ あまやどり かさやどり やどりてまからむ しでたをさ

席田   むしろだ

  1. 席田の 席田の 出貫川にヤ 棲む鶴の 出貫川にヤ 棲む鶴の[22]「出貫川にヤ 棲む鶴の」の繰り返しナシ。による。曲名注記「拍子十二、二段各」とあるのに従えば、繰り返すべきか。
    むしろだの むしろだの いづぬきがはにや すむつるの いづぬきがはにや すむつるの
  2. 棲む鶴の 棲む鶴の 千年をかねてぞ 遊びあへる 千年をかねてぞ 遊びあへる
    すむつるの すむつるの ちとせをかねてぞ あそびあへる ちとせをかねてぞ あそびあへる

大宮   おほみや

  • 大宮の 西の小路に 漢女子産だり さ漢女子産だり タラリヤリンタナ
    おほみやの にしのこむぢに あやめこむだり さやめこむだり たらりや輪たな

角総   あげまき

  • 総角や トウトウ 尋ばかりヤ トウトウ 離りて寝たれども 転びあひけり トウトウ か寄りあひけり トウトウ
    あげまきや とうとう ひろばかりや とうとう さかりてねたれども まろびあひけり とうとう かよりあひけり とうとう

本滋   もとしげき

  1. 本滋き 本滋き 吉備の中山 昔より 昔から
    もとしげき もとしげき きびのなかやま むかしより むかしから
  2. 昔から 昔より 名の古りこぬは 今の世のため 今日の日のため
    むかしから むかしより なのふりこむは いまのよのため けふのひのため

美濃山  みのやま

  • 美濃山に 繁に生ひたる 玉柏 豊の明りに[23]「に」ナシ、に従う。 会ふが楽しさヤ 会ふが楽しさヤ
    みのやまに しゞにおひたる たまかしは とよのあかりに あふがたのしさや あふがたのしさや

眉止自女 まゆとじめ

  • 御馬草とり飼へ まゆとじめ まゆとじめ まゆとじめ まゆとじめ まゆとじめ まゆとじめ まゆとじめ
    みまくさとりかへ まゆとじめ まゆとじめ 〻〻〻〻〻 〻〻〻〻〻 〻〻〻〻〻 〻〻〻〻〻 〻〻〻〻〻 

酒飲   さけをたうべて

  • 酒を飲べて 飲べ酔うて たふとこりぞ 参で来る よろぼひぞ 参で来る 〻〻〻〻〻 〻〻〻〻〻[24]「〻〻〻〻〻 〻〻〻〻〻」、「丹名丹名 太利〻良〻」、「タリタンナチリヤ タリリララ」
    さけをたうべて たべゑうて たふとこりそ まうでくる よろぼひぞ まうでくる 〻〻〻〻〻 〻〻〻〻〻 

田中井戸 たなかのゐど

  • [25]「田中」、「田中井戸」。通称に従う田中の井戸に 光れる田葱 摘め摘めあこめ タヽリラリ 田中の小あこめ
    たなかのゐどに ひかれるたなぎ つめつめあこめ たゝりらり たなかのこあこめ 

無力蝦  ちからなきかへる

  • 力無きかへる 力無きかへる 骨無きみゝず 骨無きみゝず
    ちからなきかへる ちからなきかへる ほねなきみゝず ほねなきみゝず 

難波海  なんばのうみ

  • 難波の海 難波の海 漕ぎもて上る 小舟大舟 筑紫津までに いま少い上れ 山崎までに
    なんばのうみ なんばのうみ こぎもてのぼる をぶねおおぶね つくしづまでに いますこいのぼれ やまざきまでに 

奥山   おくやま

  • 奥山に 木切る小父 木やは削る 真木やは削る 木削る小父
    おくやまに きゝるをぢ きやはけづる まきやはけづる きけづるをぢ 

奥山尓  おくやまに

  • [26]「奥山」、目次「奥山尓」、「奥山尓」。便宜上「奥山尓」を採る奥山に 木流す さかきが小父 木やと 木やと 真木やは削る 木やは削る 木削る小父
    おくやまに きながす さかきがをぢ きやと きやと まきやはけづる きやはけづる きけづるをぢ 

鈴之川  すゞかゞは

  • 鈴鹿川 八十瀬の滝を 皆人の 愛づるもしるく 時にあへる 時にあへるかも
    すゞかゞは やそせのたきを みなひとの めづるもしるく ときにあへる ときにあへるかも 

我家   わいへ

  • 我家は 帷帳も 垂れたるを 大君来ませ 婿にせむ 御肴に 何よけむ 鮑栄螺か 甲贏よけむ 鮑栄螺か 甲贏よけむ
    わいへは とばり帳も たれたるを おほきみきませ むこにせむ みさかなに なによけむ あはびさだをか かせよけむ あはびさだをか かせよけむ 

別記

西方楽

『順次往生講式』の次第中には唐楽曲の唱歌に西方浄土を賛嘆する内容の詞章を付して歌われる「極楽唱歌」(楽邦歌詠)と、同様に催馬楽の詞章を替え歌して歌われる「西方楽」(催馬楽)がある。以下の詞章は『西方楽』(金沢文庫蔵堯観手沢本、『金沢文庫資料全書第七巻歌謡・声明篇』声二、神奈川県立金沢文庫1984)による。

(青柳) あをやぎ

  1. 極楽は 極楽は 日想観に寄せてヤ 想へ その飾り めでた
    ごくらくは ごくらくは にさう観によせてや をもへ そのかざり めでた
  2. 水を見て 瑠璃の池に想ひを かけよ 深き益ありヤ
    みづをみて るりのちにをもひを かけよ ふかきやくありや

(伊勢海)いせのうみ

  • 瑠璃の池の 瑠璃の池の 木立めでたや 宝のや 池の浜ごとに[27]『順次往生講式』「宝の池の小金の浜ごとに」 玉や拾はんヤ 玉や拾はんヤ
    るりのちの るりのちの こだちめでたや たからのや いけのはまごとに たまやひろはんや たまやひろはんや

(浅水) あさむず

  • 極楽の 橋の とゞろとゞろに 渡らんと 願ひし我を 聖たち 仲人立てゝ 迎えにをこせ 消息し 問ふぞうれしきヤ 聖衆タチヤ
    ごくらくの はしの とゞろとゞろに わたらんと ねがひしわれを ひじりたち なかひとたゝて むかへにをこせ せうそこし とふそふれしきや 聖衆たちや

(庭生) にはにおふる

  • 庭に生ふる 色々の花 をしなべて 誓ひ妙なる 阿弥陀仏に みな奉る
    にはにおふる いろいろのはな をしなべて ちかひたへなる あみだぼとけに みなたてまつる

(走井) はしりゐ

  • 走り井の 水に生ふる蓮の 妙なるを 観音勢至に とり供養[28]『西方楽』「クセウ」、『順次往生講式』「クヤウ」しつ
    はしりゐの みづにおふるはちすの たへなるを かのうせいしに とりくやうしつ

(更衣) ころもがへ

  • ちりも居ず 清く妙なる衣 身にかけて 蓮に宿る ことぞ嬉しヤ 聖衆タチヤ
    ちりもゐず きよくたへなるころも みにかけて はちすにやどる ことぞうれしや 聖衆たちや

(飛鳥井)あすかゐ

  • 極楽に 宿りはすべしヤ その池もよし 水波清し 住む人もよし
    ごくらくに やどりはすべしや そのいけもよし みずなみきよし すむひともよし

(道口) みちのくち

  • 道を知らで 参り煩ふ 露の身を 九品の蓮の 上にとく置けや 聖衆タチヤ
    みちをしらで まいりわづらふ つゆのみを くほむのはちすの うへにとくをけや 聖衆たちや

『簾中抄』目録所載曲

『簾中抄』巻第二音楽「催馬楽」項に曲名の記載がある、律2曲(《千歳経》《浅也》)、呂4曲(《長沢》《万木》《鏡山》《高嶋》)。律2曲については曲名のみ伝わり詞章がわからない。呂4曲については、彰考館蔵『催馬楽』に詞章があり、《長沢》に「承平主基風俗」、《鏡山》《高嶋》に「安和悠紀風俗」と注記される。

承平は朱雀天皇の大嘗会[932]、安和は冷泉天皇の大嘗会[968]をさす。もと大嘗会風俗歌だったものを、後に催馬楽として加え入れられる考え方もあったらしい。

なお、大嘗会風俗歌に由来するとされる催馬楽には、呂に《真金吹》《美作》《席田》《美濃山》がある。それぞれ、仁明天皇[833]、清和天皇[859]、陽成天皇[877]、光孝天皇[884]の大嘗会風俗歌と考えられ、いずれも9世紀中の例。

千歳経* ちとせふる(律)

  • (不明)
  • (参考)千歳経る松が崎には群れゐつつ鶴さへあそぶ心あるらし(拾遺10-607)

浅也*  あさや(律)

  • (不明)  

長沢*  ながさは(呂)

  • 長沢の 長沢の 池に群れ居る 鶴はみな 池に群れ居る 鶴はみな 己が代々をぞ 君にまか 己が代々をぞ 君にまか
    ながさはの ながさはの いけにむれゐる つるはみな いけにむれゐる つるはみな おのがよゝをぞ きみにまか おのがよゝをぞ きみにまか
藤田徳太郎『古代歌謡乃研究』(有精堂、1969)による。

万木*  よろづき(呂)

  • 万木の 万木の 森に枯れせぬ 花折りて 森に枯れせぬ 花折りて 千歳の挿頭に 君にまい 千歳の挿頭に 君にまい
    よろづきの よろづきの もりにかれせぬ はなをりて もりにかれせぬ はなをりて ちとせのかざしに きみにまい ちとせのかざしに きみにまい
藤田徳太郎『古代歌謡乃研究』(有精堂、1969)による。

鏡山*  かゞみやま(呂)

  • 鏡山 呼ばふなる声すなり 声すなり 世に栄ゆべき 影ぞみゆらし ナヨヤ 影ぞみゆらし ナヨヤ
    かゞみやま よばふなるこゑすなり こゑすなり よにさかゆべき かげぞみゆらし なよや かげぞみゆらし なよや
藤田徳太郎『古代歌謡乃研究』(有精堂、1969)による。

高嶋*  たかしま(呂)

  • 高嶋や 高嶋や みをの中山 杣立ちて みをの中山 杣立ちて
    たかしまや たかしまや みをのなかやま そまたちて みをのなかやま そまたちて
  • (半帖)杣立ちて 杣立ちて 作り重ねよ 千重のなみ 作り重ねよ 千重のなみ[29]高嶋や水尾の中山杣立てゝ作り重ねよ千代のなみ蔵(拾遺10-605)
    そまたちて そまたちて つくりかさねよ ちえのなみ つくりかさねよ ちえのなみ
藤田徳太郎『古代歌謡乃研究』(有精堂、1969)による。

踏歌歌謡

男踏歌の次第では《竹河》《我家》《此殿》の他、《万春楽》《絹鴨》(《何ぞもぞ》)が歌われた(『西宮記』)。前者3曲が普通催馬楽とみなされるのに対し、《万春楽》は『朝野群載』に「踏歌唱曲」としてみられ、《何ぞもぞ》についても多くの催馬楽譜にみられない。以上の5曲については、まずは催馬楽としてではなく、単に男踏歌で用いられる歌謡として考えたい。《竹河》《我家》《此殿》の3曲についても、はたしてそれが「催馬楽」として歌われたものかどうか、慎重に考える必要がある。

『奥入』付箋(多久行説)に、「踏歌曲」として《万春楽》の詞章をのせ[30]「はんすらく二反 くわうえんにう◦おくせんねん◦二反、くゑんせいくゑうくゑ◦ねんくわうれい◦二反、直後に「これは催馬楽にて候、いづれの人々伝へさせ給はず、多氏ばかりには伝へて候、すべて踏歌には、《我家》《此殿》《万春楽》《何ぞもぞ》この催馬楽四を歌ひ候、皆呂にて候也」とある[31]『河海抄』巻十にも「踏歌に《我家》《此殿》《万春楽》《何ぞも》四曲をうたふ、皆呂也」とある。傍書された定家注記に「催馬楽、しかるべからざることか、名家の目録に入らず[32]「催馬楽不可然事歟不入名家目六」」と指摘されるように、《万春楽》《何ぞもぞ》を催馬楽とみなす考え方は、他流との差別化をはかった多家の独自説に由来するものと考えられる。

彰考館蔵『催馬楽』には「踏歌詠」として《万春楽》《何ぞもぞ》を掲載するが、直後に「右の詠双調を以て音とす。故に呂歌の末に加ふ[33]「右詠以双調為音故加呂歌末」」とあって、 催馬楽とは別種の歌謡であるが、双調で歌われるという共通点によって、書き加えた旨が記されている。

万春楽* ばんすらく

  • 万春楽 万春楽(万春楽)
    我皇延祚億千礼(万春楽)
    元正慶序年光麗(万春楽)
    延暦休期帝化昌(万春楽)
    百辟陪筵華幄内(天人感呼)
    先般作楽紫宸場(万春楽)
    我皇延祚億千礼(万春楽)
    人霑湛露帰依徳(万春楽)
    日暖春天仰載陽(万春楽)
    願以佳辰常楽事(天人感呼)
    千々億歳奉明王(万春楽)
『朝野群歳』巻第二十一雑文上、楽章 踏歌唱曲(新訂増補国史大系29上、吉川弘文館)による。
  • 万春楽 万春楽 
    我皇延祚 億千礼 万春楽
    元正慶序 年光麗 万春楽
    延暦休期 帝化昌 万春楽
    百辟陪筵 華幄内 天人感
    千般作業 紫宸場 万春楽
    我皇延祚 億千礼 万春楽
    仁霑湛露 帰依徳 万春楽
    日暖春天 作載陽 万春楽
    願以佳辰 常楽事 天人感
    千々億歳 奉明王 万春楽
    万春楽 々々々々々
彰考館蔵『催馬楽』 (久保木哲夫『うたと文献学』(笠間書院、2013)による。

何ぞもぞ*なにぞもぞ

  • 何ぞもぞ 何ぞもぞ 絹かも 綿かも 銭かも 布かも 何ぞもぞ
    なにぞもそ なにぞもそ きぬかも わたかも ぜにかも ぬのかも なにぞもぞ
藤田徳太郎『古代歌謡乃研究』(有精堂、1969)による。

『楽章類語鈔』所収曲

小山田与清『楽章類語鈔』楽章補闕集「催馬楽」項末尾に、《しらね》と題する一曲が載り、「此標目今私注之、按『袖中抄』巻十六云、催馬楽に、つくし舟うらみを云々」とある。ところが『袖中抄』巻第十六「しゞね」項には「しゞ」の用例として催馬楽《美濃山》の詞章が引用され、その直後に源俊頼の和歌として「つくしぶねうらみをつみてもどるには葦屋にねてもしゞママねをぞすママる」をあげているだけなので、これを催馬楽と解する与清の解釈には無理がある。

しらね* しらね

  • 筑紫舟 うらみを積みて 戻るには 蘆辺に寝ても しらねをぞする
    つくし舟 うらみをつみて もどるには あしべにねても しらねをぞする
  • (参考)筑紫舟うらみを積みて戻るには蘆屋に寝てもしらねをぞみる(『散木奇花集』巻第五)

   [ + ]

1. 「可安太」、「加太」
2. は一段、他本二段につきこれに従う。
3. 「美曽不」、「美曽乃不乃」
4. 「礼留」、「祢留」
5. 「安乎支」、「アオヤキ」
6. ににナシ。による。
7. 「曽於与於也」、「曽与也」
8. 「曽与」、「曽与也」
9. 「多己止乎」、「太礼加 太礼加己乃己止乎」
10. 三段以下欠。書芸文化院蔵断簡「催馬楽切」による。
11. 断簡ここまで、以下による。
12. 本文三段二句まで欠。による。目次「山代」、「山城」。
13. 本文欠。による。
14. 本文欠、による。目次「此殿者」「此殿」
15. 本文欠、『藻塩草』所収「催馬楽切」による。目次「此殿乃」、断簡「此殿」、「此殿西」、三「此殿之」、便宜上「此殿西」を採る。
16. 目次「此殿奥」、本文「此殿」、「此殿奥」
17. 「己恵奈留也」、「コサカコヱナルヤ」
18, 19. ママ、「太衣太留」、「タエタル」
20. 「毛」、「ヤ」
21. 「たいきの童のさせこがひ」ナシ、による。
22. 「出貫川にヤ 棲む鶴の」の繰り返しナシ。による。曲名注記「拍子十二、二段各」とあるのに従えば、繰り返すべきか。
23. 「に」ナシ、に従う。
24. 「〻〻〻〻〻 〻〻〻〻〻」、「丹名丹名 太利〻良〻」、「タリタンナチリヤ タリリララ」
25. 「田中」、「田中井戸」。通称に従う
26. 「奥山」、目次「奥山尓」、「奥山尓」。便宜上「奥山尓」を採る
27. 『順次往生講式』「宝の池の小金の浜ごとに」
28. 『西方楽』「クセウ」、『順次往生講式』「クヤウ」
29. 高嶋や水尾の中山杣立てゝ作り重ねよ千代のなみ蔵(拾遺10-605)
30. 「はんすらく二反 くわうえんにう◦おくせんねん◦二反、くゑんせいくゑうくゑ◦ねんくわうれい◦二反
31. 『河海抄』巻十にも「踏歌に《我家》《此殿》《万春楽》《何ぞも》四曲をうたふ、皆呂也」とある
32. 「催馬楽不可然事歟不入名家目六」
33. 「右詠以双調為音故加呂歌末」
タイトルとURLをコピーしました